遺伝病と進化を結ぶウェブツール dbCNS
2021 年 4 月 8 日 改訂
井上 潤

遺伝子発現のスイッチである調節配列は、ゲノム (ある生物の持つ DNA配列のすべて) のどこにあるのか。これがわかれば、ゴミ同然とされた非コード領域 (遺伝子以外の DNA 配列) の役割がわかってくる。さらには、遺伝病の解明にも役立つ。そこで我々は、種間でゲノムデータを比較して、調節配列を探索するウェブツール dbCNS (DataBase for Conserved Noncoding Sequence) を開発した。dbCNS は誰でも利用できる簡単なツールで、通常 30 秒程度で解析が終わる。

非コード領域は広大で、しかもネズミやヒトの間でも配列が大きく異なるため、一度にすべてを比較するのは不可能だ。そこで我々はまず、種間で保存された 100bp 程度の配列 (CNS: conserved noncoding sequence) に注目した。ネズミとヒトの間であっても配列が同じあれば、何か役割があるだろう、という期待である。そこで、脊椎動物 180 種のゲノム配列と、実験動物だけで知られる 700 万個の CNS を、データベースにした。そして、このデータベースを web 上で簡単に操作できる仕様を開発した (上図 A, B)。

dbCNS を用いれば、病気の原因となる DNA 配列の変化が、生物の進化で受け入れられることがあったのか検討できる。例えば、ヒトでは眼の病気を起こす DNA 配列の変化が、ヘビの祖先でも生じていた(上図B、右図)。ヘビの進化に関わる論文を調べると、ヘビの祖先は地中生活を送っていたため、眼の機能が衰退していることがわかった。このように、dbCNS は遺伝病と進化をつなぐツールと言える。

文献
Inoue J, Saitou N. 2021.
dbCNS: a new database for conserved noncoding sequences. Molecular Biology and Evolution. 38: 1665-1676. Link.