オステオグロッサム類の系統関係と分岐年代の推定
2011 年 12 月 11 日 改訂
井上 潤 (University College London)・熊沢 慶伯 (名古屋市立大)
宮 正樹 (千葉中央博)・西田 睦 (東大海洋研)

 オステオグロッサム類 (Teleostei: Osteoglossomorpha) は,アロワナやナギナタナマズなど有名な淡水性の観賞魚が多く含まれるグループである.真骨類根幹から分岐するだけでなく絶滅種の化石記録が多く知られていることから,動物学の研究に重要な題材が多数含まれているにも関わらず,オステオグロッサム類主要系統の分岐関係は混乱を極めていた.観賞魚として有名なだけあって形態的にユニークな魚類がほとんどで,比較可能な形態形質がほとんどなかったのである.これに加えて,絶滅種の化石は豊富な一方で現生種の化石はほとんど知られていないことから,その分岐年代も推測の域を出なかった.



オステオグロッサム類の系統関係

 分子データの蓄積と年代推定法の発展により,2009 年になってようやくオステオグロッサム類の時間軸付き系統樹が推定可能になった.オステオグロッサム類主要系統から得たミトコンドリアゲノムデータを既存の真骨類データセットと合わせて解析したところ,これまで形態データでは提唱されたことがない系統関係が高い統計値によって支持された.しかし我々が得た系統樹は,これまで形態データで確実と考えられていながらも,形質によっては支持されないことがあった系統関係をまとめあげるような結果であった.さらにこの結果は,Lavoue and Sullivan (2004) が,数個の核遺伝子に基づいておぼろげながら描き出していた系統関係とも一致していた.



オステオグロッサム類の分岐年代

 ベイズ法を用いてミトコンドリアゲノムデータを解析したところ,オステオグロッサム類は 295 million years ago (Mya) に他の真骨類から分岐し,科間の分岐は 142 Mya - 253 Mya に生じたと推定された.我々の推定値は,化石記録から直接推定された,オステオグロッサム類 (真骨類根幹) (295 Mya),オステオグロッサム類根幹 (253 Mya),ナギナタナマズ科 (133 Mya) の分岐年代をそれぞれ大きく上回っており,一見またしても分子分析では化石推定よりもずっと古い値しか得られないのかと思えた.しかし化石記録が充実しているためか,アロワナ科/ナギナタナマズ科の分岐は分子分析 (179 Mya) と化石推定 (>157 Mya) でほぼ一致していた.


 今回の研究ではオステオグロッサム類の時間軸付き系統樹が世界で初めて推定された.そして,ただ化石推定より古い値が得られるだけと思われがちな分子分析でも,ときには化石推定と一致した結果が得られることが示された.最近いくつかの脊椎動物主要グループで分子年代推定が行われ,化石推定を大きく上回る推定値が得られていることがある.化石推定と分子分析は対立するものではない.分子分析による年代推定は,化石記録の詳細な研究がなければなりたたない.分子年代推定は,化石研究の助けを得ながら今後より精度を増していくことがのぞまれる.



Inoue, J. G., Kumazawa, N., Miya, M., Nishida, M. The historical biogeography of the freshwater knifefishes using mitogenomic approaches: A Mesozoic origin of the Asian notopterids (Actinopterygii: Osteoglossomorpha). Molecular Phylogenetics and Evlution. in press. [doi:10.1016/j.ympev.2009.01.020]