アフリカからアジアに渡った淡水魚・ナギナタナマズ
2009 年 2 月 17 日 改訂
井上 潤 (University College London)・熊澤 慶伯 (名古屋市立大)・
宮 正樹 (千葉中央博)・西田 睦 (東大海洋研)

アフリカとアジアに分布するナギナタナマズ

淡水魚の分布は,よく見てみると疑問がわいてくることが多い.まず外洋に出ることがあり得ない淡水魚が,海を隔てて遠く離れた大陸に分布していることがよくある.ナイフフィッシュとして知られているナギナタナマズ科魚類は,アフリカとアジアに分布しており,その典型と言える.

ナギナタナマズ科魚類の属するアロワナ目の多くがアフリカに生息していることから,ナギナタナマズ科魚類の起源はアフリカにあるという.そして,アフリカとアジア・ナギナタナマズの分岐は,化石記録だけに基づいて 35 Million Years Ago (Mya) と推測されていた.このため,アフリカとユーラシア大陸をつなぐ狭い陸橋を通って,アジア・ナギナタナマズはアフリカからアジアに到達したと漠然と考えられていた.それならなぜ,ナギナタナマズ科魚類は中間地帯の中東に分布せず,化石も見つからないのだろうか.

私が研究テーマとしている分子系統解析は,このような生物地理学的な問題にも答えてくれることがある.アジアに生息するナギナタナマズ類の起源とやってきた道のりを明らかにするために,ミトコンドリアゲノム全長配列に基づいて系統解析と分岐年代推定を行った.



アフリカ起源は本当だった

解析の結果得られた系統関係に注目してみると,アフリカとアジアのグループはそれぞれ単系統群となり,その外側にアフリカにのみ分布するモルミルス科とギムナーカス科の分岐が見られた.当初考えられていたナギナタナマズ科魚類・アフリカ起源説は,最節約的に考えるとどうも正しいようだ.



インド亜大陸によって運ばれたアジア・ナギナタナマズ

ミトコンドリアゲノムを解析したところ,アフリカとアジア・ナギナタナマズの分岐年代は 133 Myaと推定された.95% 信頼区間 111-156 Mya を考えても,化石記録から直接推定されていた 35 Mya よりもずっと古い数字が得られた.それではナギナタナマズはどうやってアフリカからアジアに移ったのだろう.アフリカからアジアに移ったナギナタナマズの分散経路を考えるには,大陸移動説に基づいて議論を進める必要がある.

仮説 A は、20 Mya にアフリカ大陸がユーラシア大陸に衝突してテチス海が閉じた後に、アフリカから中東経由でアジアにナギナタナマズが渡ったという仮説である.この場合,アフリカとアジア・ナギナタナマズの分岐年代は,両大陸が衝突した 20 Mya と同じぐらいか若干古い年代である方がリーズナブルである.しかも化石記録は中東から知られていない.

仮説 B は「Out of India 仮説」と言われるもので,我々の推定年代と一致する.アフリカ・ナギナタナマズと分岐した後にアジア・ナギナタナマズはインド亜大陸に乗って北上し,アジアに到達したとする仮説である.我々の推定値 133 Mya はアフリカとインド大陸の分離した年代 120-130 Mya と一致しているうえに,アフリカ,インド,インドネシアという化石分布もこの仮説を支持している.

仮説 C は,現在の大陸が超大陸パンゲアとしてまとまっていた時期に,アフリカからアジアにナギナタナマズが渡ったとする仮説である.ユーラシア大陸とアフリカ大陸の分離は 157-178 Mya とされている.アフリカとアジア・ナギナタナマズの推定分岐年代 133 Mya に両大陸はすでに遠くはなれているが,95% 信頼区間 111-156 Mya を考えるとこの仮説を捨てきることはできない.中間地点にあたる中東付近から化石が出ていないことを考えると,仮説 C は B よりも信憑性に欠ける.



同様の分布パターンを示す他の淡水魚

ナギナタナマズの他に,アロワナ科,カラシン目,カダヤシ科,カワスズメ科などが,遠く海を隔てて分布することが知られている.



Out of Africa 仮説は他の動物の分布パターンにも当てはまる

近年の分子分析によって,ranid frogs (Bossuyt and Milinkovitch, 2001), ratite birds (Cooper et al., 2001), アロワナ科魚類 (Kumazawa and Nishida, 2000),タイワンドジョウ科魚類 (Li et al., 2006) の分布が「Out of India 仮説」で説明可能であることが示されている.

白亜紀にインド亜大陸がアフリカ大陸から離れて北上しユーラシア大陸に衝突した事件は,ナギナタナマズだけでなく,様々な脊椎動物の分布パターンに大きな影響を与えたことは確かなようだ.


Inoue, J. G., Kumazawa, N., Miya, M., Nishida, M. The historical biogeography of the freshwater knifefishes using mitogenomic approaches: A Mesozoic origin of the Asian notopterids (Actinopterygii: Osteoglossomorpha). Molecular Phylogenetics and Evlution. in press. [doi:10.1016/j.ympev.2009.01.020]