ベイズ法による種の分岐年代推定に化石制約が及ぼす影響

ベイズ年代推定では,様々な情報 (特に分子や化石データを) を解析に用いることができる.現時点では,化石情報が不確実であることを解析に反映できる唯一の方法である.

この論文で我々は,二つのベイズ MCMC 解析プログラムである MULTIDIVTIME と MCMCTREE を用いて,両生類,条鰭類,ネコ科のデータセットを解析した.そして,年代推定に影響があるとされるファクター (進化速度と時間の事前分布,塩基置換モデル,分子時計をどれぐらい緩くするか,分岐間の進化速度をどのように関連させるか,尤度を概算するか,など) のうち,どれが結果に大きな影響を及ぼすのか検証した.

系統間の進化速度が大きく異なっているので,どのデータセットに対しても分子時計を仮定することはできなかった.分岐間で進化速度に関連があるとするモデル (auto correlated model) と独立しているとするモデル (independent model) のどちらを用いても,結果に大きな違いは見られなかった.一方で化石記録に基づく制約は,事後確率 (推定年代) に最も大きな影響を及ぼした (下図).特に,二つのプログラムでは下限制約に施す事前分布が大きく異なっており,このことによって得られる結果が大きく左右されることが明らかになった.つまり,これまでに出版されている結果は,それぞれの論文で採用されている下限制約の事前分布に大きく依存していることになる.

我々が得た結果は,分子年代推定では化石制約が極めて重要であることを示している.種の分岐年代推定に利用可能な化石情報を統計的にまとめるために,化石がどのように堆積・保存され,そしてサンプリングされるのかを示した確率モデルが必要である.

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Inoue, J., Donoghue, P.C.J., Yang, Z. 2010.
The impact of the representation of fossil calibration on Bayesian estimation of species divergence times. Systematic Bioloy, 59: 74-89 [PubMed].